先日は、昨今のMBTIの流行について書かせていただきましたが、その続きです。
MBTIは、実はユング心理学の「タイプ論」というものを下敷きにしているのですが、まずはそのタイプ論について前述の河合隼雄先生のご著書などから説明しますね。
ユングは、人の性格をタイプ分けすることを考え、分類する指標として、心の2つの基本的態度というものと、4つの心理機能とを見出しました。
基本的態度とは、いわゆる「外向性」と「内向性」のことです。この言葉は、日常的にも、「僕は内向的だから…」などと普通に使われていてわかりやすいですよね。
一方心理機能とは、物事を把握する時の心の用い方のことでして、ユングは、各個人はおのおの最も得意とする心理機能を持っていると考えました。
例えば思考型の人は物事を論理的、分析的に捉えて行こうとします。その逆に直感型の人は、論理を超えた、いわば第六感を使って捉えていきます。
感情型の人は、物事をまずは好き嫌いで捉えていきます。感覚型の人は、論理でも好き嫌いでもなく、まずはその鋭敏な感覚を用いて詳細に把握していこうとします。
そして、ユングはこれらを組み合わせて、例えばAさんは「外向思考型」Bさんは「内向直感型」など分類したわけですね。
もちろん、この考え方は、統計的な研究がなされたわけでもなく、科学的に正しいとは言えないでしょう。
しかし、この考え方を心理療法の場面で用いると、ある程度有用性があると言われています。患者さんの内面の成長、深化のための道筋を想定することに役立つのです。
と言うのは、ある人が例えば思考型に分類されるとしても、その他の心理機能である感覚、感情、直感が、心の中に無いというわけではなく、単に思考機能を使うのが得意で、他の機能を使うのが(今のところ)不得意、というだけだからです。むしろ、いつの日か不得手であった機能を成長させるべきなのです。
例えて言うと、得意な機能は「利き手」のようなものです。右利きの人は右手をよく使いますが、もともと左手も持っているし、今は左手は不器用だけど、トレーニングによっては、かなりの程度、左手も器用になる、というのと同じことですね。
ユングは、心のどのような機能であれ、あまりにそればかり使われすぎると良くないと考えていました。さらには、苦手な機能も成長させてバランスを良くしたほうが精神も人生も安定するし、人格的にも成長し深化もする、とも考えました。
これも前述の「利き手」を応用した比喩で説明しますね。
例えば、右利きのテニスプレイヤーが若い時からさんざん練習したせいで(身体の半身を酷使するスタイルなので)腰を痛めた、という場合を考えてみます。
プレイヤーのキャリアとして一大危機ですよね。その時にこのプレイヤーが、これまでの自分が、半身のみ使いすぎたと気づいて、バックハンドを両手打ちに変えたら、身体のアンバランスが治って腰の調子が良くなり、そればかりかプレイ自体も幅が広がって、さらに強くなった、ということは実際にありうるでしょう。
(なお、フェデラー選手も錦織選手もこの挿話と直接関係はないので、念のため)
同じような例が、心の用い方でもよくあるのです。実際ユング派的な心理療法では、これまで心の機能の一面しか使ってこなくて、そのせいで心にも人生にも失調をきたしている方に対して、今まで使って来なかった心の用い方をお勧めしていく、というのは、よくやる作戦なのです。
私もよく、患者さんのうちで「心の一面しか使われて来なかったのかな」という方には、今までやってこなかったことをするようにお勧めします。
例えば真面目一辺倒の方には、「もっと遊びを」とお勧めしますし、理論的で分析的な方には、「もっと感覚的な心の用い方を」と言う意図から、音楽とか美術などの趣味を持たれるようにとお勧めしています。
私はよく、「これまで、まさか自分がやるとは思わなかったことをやることに意味があるし、これまで自分がバカにしていたようなことをやってみると、意外に楽しいですよ」などとも付け加えます。
時々私の勧めに従って何かを始められる方がいます。例えば今まで音楽に縁がなかった方がピアノを始められたとか…。そういう方は決まって、だんだん元気になっていかれます。
かくいう私も、今は美術と音楽を趣味としておりますが、それらは人生の後半で始めたものです。ですので全く上手くはなりませんが、美術の教室や楽器のレッスンに通う日々がとても楽しいし、なんだか今のほうが、本当の自分自身に近づいている気がします。実は先日も、ある美術の公募展に作品をを出品したところです。
もし皆様、上野にお越しになるご用事があれば、お寄りいただけると幸いです!
さて、だいぶ遠回りしましたが、本題はMBTIでしたね!
ネットでの設問に答えた結果得られたMBTI(?)のタイプを、決定的で正確な真実と信じていられる方には、まずは、そのネット上の診断自体がけっこう怪しいものらしいことを再度、強調したいです。
さらには、もし、今自分に下された性格診断がある程度あたっているにしても、それが、運命的に自分に与えられていて未来永劫変わらないもの、と考えて欲しくないです。
ユングも、そしておそらくMBTIも、ある人の現時点でのタイプを診断することを最大の目的としているわけではありません。むしろ、将来的に(特に中年期以降に)自分を、よりよく変えていき、まさに全人的に成長、深化していくために用いられるのに有効な指標として用いられることを目としているのです。
つまり、若い時にMBTI(?)で診断された自分のタイプは、あくまでも一時的なものであって、思考、感情、感覚、直感のうちの自分には乏しいと診断された心の機能をこそ、将来的には鍛えて伸ばしていくと良い、ということをぜひご理解いただきたいと思います。