先日、東京で行われたADHDに関する講演会に参加しました。
とても有意義なお話を聞くことができました。薬物療法にもお詳しい先生が演者だったので、講演会のあとの懇親会で質問してみました。
前回のブログで書いたように、インチュニブという薬の効くメカニズムに関して腑に落ちない点があるのです。
とても明解なお返事をいただけたので、それをご報告しようと思います。併せて、他のお薬、ストラテラやコンサータが効くメカニズムもご説明しますが、まず、その前に、そもそも薬は脳のどこにどのように効いているのかをお示しします。
脳は、神経が絡み合ってできていて、ある神経から次の神経に刺激を伝えあっています。ある神経とその次の神経の間には、少し隙間があって、その部位をシナプスと言います。
そして、そのシナプスの隙間を、「神経伝達物質」というものが移動していって、次の神経まで達すると、次の神経が興奮します。
多くの精神の病気は、このシナプスの間の刺激の伝達がうまくいってない(簡単に言うと、神経伝達物質が少なくなっている)ために起こるとされています。
ADHDでは、これまで、ノルアドレナリンとドーパミンという神経伝達物質が減っていると考えられていました。それで、それらを増やそうという薬が開発されてきたわけです。
まず、ストラテラという薬は、
このように、ストラテラが、ノルアドレナリン神経にくっつくと、ノルアドレナリンが増えます。増えるメカニズムは「再取込み阻害」という面白いメカニズムなのですが、話が長くなるので、今回は省きますね。
一方コンサータという薬は、
このスライドのように、コンサータがドーパミン神経にくっつくとドーパミンが増えるわけです。
ここまでは、比較的シンプルな話ですよね。しかし、インチュニブの場合は少し違うのです。
インチュニブは、シナプスに作用するわけではないし、そもそも、グルタミン酸神経系というところに、いわば横っちょから作用しているらしいのです。
このスライドのようにグルタミン酸神経系というネットワークが有るのですが、そこに「横っちょ」からノルアドレナリン神経系も刺激を伝達します。きちんと刺激が伝達されていると、グルタミン酸神経系のネットワークがうまく動きます。
逆にノルアドレナリンが少ないとうまく働きません。
インチュニブはどうやら、このノルアドレナリンがくっつく部位にノルアドレナリンの代わりにくっついて、ノルアドレナリンが少ない場合でも、グルタミン酸神経系の働きをスムーズにするという働きがあるらしいのです。
私が質問させていただいた、偉い先生は「点滴の側菅から薬を入れるみたいなもんですよ」とおっしゃいました。
点滴というのは、次のスライドのように
メインの薬剤を体内に届けルートの途中に側菅という注入口があって、そこから、「隠し味」のような薬を入れることができます。その先生が仰った比喩は、ストラテラやコンサータは、この点滴のメインの薬剤をどんと増やすような薬であって、インチュニブは、隠し味みたいな薬と同じ作用、という意味なのだと思います。
というのも、実は、点滴の主の薬がドンと増えた場合、つまりシナプスで言うと、たとえばストラテラでノルアドレナリンが増えすぎた場合、どうも良くないことが起きるらしいのです。
この図が最近よく講演会で示されるのですが、脳内でノルアドレナリンが少なくても、多すぎても、神経間の刺激の伝達が悪くなってしまうということを示しています。
この図だけだと、「なんでそうなるの?」ということがよくわからないのですが、この現象も、グルタミン酸神経系が介在していることを考慮するとわかりやすいです。
脳内でノルアドレナリンが増えると、先程は述べたのとはまた違う部位(α2A受容体ではなくて、α1受容体)にもノルアドレナリンがくっつくという事態になり、そうなると、グルタミン酸神経系の働きが悪くなってしまうのです。
一方、インチュニブはα1受容体にはくっつかないので、仮にインチュニブを飲む量が多すぎたとしても、グルタミン酸神経系の働きが悪くなることは起こり得ないらしいです。とても安全な薬、というわけですね。
さて、以上、かなり長くなってしまいましたが、現時点での私の理解を解説させていただきました。なお、この私の理解は薬品メーカーや専門家のチェックを受けたわけではありませんので、どこかに間違いがある可能性はあります。おかしいところがありましたら、ご批判を賜れれば幸いです!