頑張るということ

頑張るということ

まだ年の始めなので、皆さま、何か一念発起して頑張っている、といったことがありますか?
私もたまーに一念発起することがあります。朝早く目が覚めてしまった時など、「では今日から早起きして、気になっていたあのテーマについて勉強しよう!」と思い立って、布団から出て机に向かい気持ちよく勉強するのですが…。たいていその二、三日後には、風邪をひいてしまいます。無理はいけないのでしょうねー(先日の当院の休診の際にはたいへんご迷惑をおかけしました!)。
というわけで、あえなく私の一念発起は頓挫してしまいます。

この「一念発起」という言葉から、メンタルヘルスの領域ですぐ頭に浮かぶのは、「統合失調症」という病気です。昔はよく「出立の病」と言われていました。これは、発症のきっかけが、青年期の若者が一念発起して、頑張りすきて、(元々持っていた体質的な要因が露わになってしまって)発症したように見える場合が多かったからです。昔は、多くの優秀な若者が、いわゆる「青雲の志」を抱いて地方から上京し、無理をしすぎて発症してしまい、夢破れて故郷に帰る、といったことが多かったように思います。


私としては、「頑張る」ということを否定するつもりはないし、むしろ「頑張り所では誰もが頑張らなくてはならない」という考えを持っています。 しかし、やはり、無理を通すのは危険を伴うことではあります。上で述べた統合失調の場合、初発の際も、そして、治療中の回復期においても、しばしば、現実的にとうてい不可能な目標にチャレンジしようとする傾向があります。
そして、無理な目標に向かって無謀な努力をし、倒れてしまうのです。

話は変わりますが、「頑張る」というテーマについては、やはりうつ病を避けて通るわけにはいきませんね。有名な「うつの方に、頑張れと励ましてはいけない」という注意事項があります。
ただ、この注意事項について最近異論もあるのは、これまでのブログで書いてきた通りであり、今回は触れません。
むしろ、うつ病の方の発症前の姿が、とても特徴的なことが知られています。よく我々精神科医の間では、「(古典的な)うつ病になる方っていうのは、普通の人なら頑張れないところまで、頑張れちゃう人だよね」などと言います。 「病前性格」という医学用語があります。うつ病などのメンタルな病気になる方は、病気になる前に、特有な性格傾向がある、という説ですね。
難しい話は省きますが、うつ病になる方は、元々、几帳面な働き者であることは知られています。なおかつ、普通の人なら「そこまでできないよなー」と思うレベルまで、投げ出さずに取り組み、完璧主義的に仕上げるのです。 その過程で、普通の人なら投げ出すレベル(つまり、そこで立ち止まれば、病気にならずにすむ体力の限界のレベル、と同じ意味ですね)を超えてしまい、病気が発症してしまうわけですね。

結局、統合失調症もうつ病も、非現実的な目標に向けた度を越した頑張り、というのが、その発症に関係している、ということですね。 特に「一念発起」して、突然頑張る、というのは、あまり勧められません。その方に(良くも悪くも)人並み外れて頑張れる特性があれば、もしかしたら病気を発症させてしまうかもしれないし、私のような凡人の場合は、どうせ(風邪を引いたりして)長続きしません。

結局のところ、最も有意義な形の「頑張り」とは、現実的な目標に向かって、完璧主義に陥らず、コツコツと丹念に、倦むこともなく、粘り強く、努力し続ける、といった感じなのだと思います。 思い起こせば、自分の学生時代、本当に優秀な友人は、そんな感じでした。そして彼らは実際今、偉い先生になっています。 (もちろん私も含め)なかなかそういう努力はできませんけどね…。