映画『ツレがうつになりまして』を見て

映画『ツレがうつになりまして』を見て

先日、テレビでやっていたので、『ツレがうつになりまして』という映画を見ました。

原作もベストセラーになったので、ご存知の方も多いと思います。


素晴らしい映画でした。うつ病の方や家族の方の大変さが描かれていますし、周囲からの良い対応、良くない対応なども示されており、(おそらく映画としてのメインテーマである)夫婦愛も感動的に描かれています。


 ただ、気になる点もあります。うつ病という病気って、当事者の方にとっては、おそらく、もっともっと深刻、ですよね…?
 他のドラマや映画を見ても、名だたる名優が(例えば『うつ病9段では、安田顕さんでした)、うつ状態を一生懸命に熱演されています。しかし…、うつ病がひどい時って、周囲から見ても、あんなに「熱が入った」ようには見えないし、本人も「何にも熱を込められない」気がして、それがもっともつらいのではないでしょうか?

 何度か私がこのブログで書かせていただいているように、うつ病というのは、脳に起因する、ヒトの生きるエネルギー全般が減弱してしまう病気です。うつ病の方は何に対しても熱が入るはずはないのです。
 おそらくご本人の感じ方を言葉にすると、「何もかもが動かない」という感じが主なのではないでしょうか。「頭も動かず、気持ちも動かず、身体も動かない。自分はどうなってしまったのだろう」といったような…。
 その動かないご様子は、私どものように側で接している者にも感じ取れます。動き方は、まるで鉛を肩に乗せているかのように大義そうでゆっくりだし、表情は、悲しげというより、表情筋が全く動きを止めている印象です。
 私ども精神科医は、しばしば「ろくに話も聞かないで短時間で診察を切り上げて…」などと批判を受けますが、その代わり、そういった患者さんのご様子をつぶさに拝見するような教育を受けています。うつ病の方は、良くなってくると、動きが滑らかに、自然な感じになり、表情が豊かになっていかれます。私どもはそういう変化には敏感で、そういった兆候から、治り具合を測っているのです。

 テレビや映画での、うつ病を演じられている役者さんの動きをみていると、つい私などは、「初期のうつ病の方は、そんなに早く歩けないし、そんなにキビキビ動けない。そんなにスッと立ち上がることさえできない…」と呟いてしまいます。
 もちろん私はそういった映画やドラマを批判しているわけでは全くなく、啓蒙的な意味でも、今後もたくさんそういった作品が作られるべきだと思います。ただ、視聴者の方には、本当のうつ病はもっともっとつらいものなのだ、ということを知っていただきたいとは思います。