右脳と精神療法の関係について

右脳と精神療法の関係について

皆様、GWは、いかがお過ごしですか? 私はもっぱら原稿書きです。

最近、ご指導を受けている箱庭療法の大家、大住誠先生が、新しい本を書かれるので、その中に一文を寄せてほしいと、ご指示を受けたのです。


大住先生の方法は、患者さんにまず瞑想をしてから箱庭を作ってもらい、なおかつ、日常生活では森田療法的な日記を書いてもらう、という独創的な方法です。
私も、その方法を試しつつあるのですが、確かに、その有効性は高そうです。

その有効性の理由について、精神科医の立場からコメントさせていただこうと考えています。
題して、「右脳と精神療法の関係について」です。


皆様、脳には右脳と左脳という2つがあって、その働きは異なるらしい、という理論はご存知でしょうか?
アメリカのスペリーという研究者が1981年に、この研究でノーベル賞をとって以来、多くの研究が重ねられています。
簡単に言うと、左脳は、「話す、書く、計算する、分析する」ことが得意で、右脳は「ひらめきやイメージを扱ったり、直感的に物事を把握する」ことが得意と考えられています。
そして、通常の、特に現代人の意識の中では、左脳の働きがより活発であると考えられています。
大住先生の方法は、いくつかの技法を重ね合わせてありますが、それらの技法には共通して、「右脳の働きを活発化させる」といった働きがあると思われます。
瞑想は、ごく簡単に言うと、いつも活発に働いている(時には働きすぎている)左脳に、少し休んでもらうための技法であるとといっていいでしょう。
箱庭療法は従来、非言語的な精神療法(つまり、患者さんの左脳を使うのではなく、右脳を使うと言う意味ですね!)として有名です。
また、森田療法的な日記というのも、それは、あれこれと自分の悩みを書きつらねる、といった方向でなく、日常生活で感じたことなど書く日記なので、これも直感を大事にするという意味で、右脳の働きを強める方法と考えてよいでしょう。
こうみてみると、大住先生の方法は、きわめて巧妙に組み上げられた、右脳の働きを活発化させる精神療法と言えるとおもうのです。

 


こういうふうに、右脳左脳という脳生理学的な話を精神療法の世界に持ち込むことに、奇妙な印象を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、目を世界に転じると、あながち奇妙でもないのです。

 

近年、精神分析の研究者が、自分たちの理論は脳生理学からみると、どう理解できるのか、ということを盛んに研究しています。

その中の一人、アメリカのA.N.ショアという研究者は、「精神分析で、これまで『無意識』と呼んできたものは、結局は右脳の働きのことだったのではないか」という興味深い説を述べています。

さらに興味深いことには、最近、この方の本邦初の翻訳書が出版されましたが、その題名はなんと「右脳精神療法」です。

今後、さらに研究が進んで、脳生理学と精神療法との関係が明らかになる日が来るかもしれません。
その日が来るのが楽しみです。