通過儀礼がもたらす心理的変化 - 飯田橋メンタルクリニックブログ | 飯田橋メンタルクリニック | 千代田区 飯田橋駅徒歩5分の心療内科 精神科

儀式の意味について~イニシエーションとは~

春というのは様々な式典がありますよね。卒業式にはじまって、入学式や入社式など……、まるで国を挙げて一斉に式典をしているみたいです。
先日も花見がてら散歩をしていたら、
ご近所の大学の入学式に遭遇しました。



時々、若い方で儀式的なもの大嫌いで『意味があるんだろうか』と言う方がいます。
しかし私のような立場の者から言うと、儀式的なものは、あれでなかなか意味があるのです。


皆様、「イニシエーション」という言葉をご存じでしょうか?日本語では「通過儀礼」などとも言いますね。
民俗学や心理学の分野で広く使われてきた概念で、ある段階から別の段階へと移行するためにする
行為のことですね。
具体的に言えば、子供が大人になったり、ある共同体外の人が、共同体の一員になる行為です。

昔はこの行為が密接に儀式に結び付けられていました。
皆さまご存じの「バンジージャンプ」というのは、
南洋のある島の儀式を基にしています。その儀式というのが、男性が成人する時に高い塔から蔦を足に結んで飛び降りるというものでして、その危険な行為を成し遂げることによって、男性の勇気が証明され、また大人の男性としての社会的承認がなされるという大きな意味を持っています。


そしておそらくこういった儀式により、その儀式を成しえた個人の意識の中でも、「自分は大人になった」とか「大人の社会に参入した」という自覚が強烈になされるのではないでしょうか。

現代社会では、こういった通過儀礼の儀式が減っていますが、そのせいもあって、現代の若者の場合、「自分が大人にも成り切れない、何者でもない状態」が長く続いているとも言われています。


しかし現代でも、意外にも連綿と続けられているイニシエーションの儀式はあります
イニシエーションというのは実は、若い人が成長していく時だけに用いられる概念ではないのです。

代表的なのは葬式ですね。葬式が何のために、そして誰のためになされるのかは難しい問題です。
宗教学的なことは私はわかりませんが、心理学的には、あとに残された者のためのイニシエーションの儀式と
捉えられます。
あとに残された者は、今後、亡くなられた方がいない世界
の中で生きていかなければならないわけです。
葬式というのは、残された者が、その事実を儀式の力を借りて、深い実感とともに受けれて腹をくくっていくための行為だとも言えるでしょう。


もう一つは結婚式ですね。これは当たり前ですね、若いお二人がこれから夫婦として社会に参入していくことを示す大事な儀式です。
でもそれだけではないのです。結婚式は新婚の二人の親からみると、ある意味、葬式のように、何かを失う
体験です。それを受け入れるための儀式でもあります。


私事で恐縮ですが、私の娘は先日結婚しました。
式の前から娘は家を離れていたので、結婚という事実が、どこか今一つ私は受け入れてなかった気がします。

しかし式では、強い実感として、それを感じました。キリスト教式の、あざといくらい象徴的な儀式である、あのバージンロードを娘と歩く、という行為の時でした。

ご存じのように、バージンロードでは最初は父親が娘と歩き、牧師の前で娘の手を新郎に引き渡します。その時、私は不覚にも少し胸に迫るものがありましたね。
別に娘が取られるといった無粋な感情が湧いたわけではないのです
私が感じたのは「これまでは、こ
の娘に関しては何をしても父である自分が責任を負わなければならなし、また何があっても自分が守らなくてはならなかったけれど、これからは、その責任を負ったり守り手でもある、という役割は自分から離れて、この男性に移るんだな」という意識でした。

それを突然、実感として把握しホッとすると同時に、ちょっと(役割に対する)喪失感も味わいました。
さきほどのイニシエーションと絡めると、私は、それまでの、娘がいた世界、から、(もちろん死んだわけではないけれど、少なくとも)娘との関係性が圧倒的に変わってしまった世界への移行が余儀なくされたというわけですね。
結婚式をしていなければ、そういった深い気づきはなされずに、これまでと関係性が変わったことに思い至らず、あいわらずあれこれと娘に口を出したり
してしまっていたことと思います。今は、口を出そうと言った考えは不思議とほとんど浮かびません。

やはり儀式という行為は、言葉という表層的な道具を使わずに、大切なことをダイレクトに心の奥底で把握させてくれる重要な物なのだと思います。


ですので、若い方は面倒くさいと思われるでしょうが、結婚式はじめ、昔から行われている儀式はなるべくやりましょう!
自分のためにも良いし、親のためにもなるのです。

話は変わりますが、私は娘を持つサックス吹きの定番で、式で一曲吹いてしまいましたが楽しかったです。




ところで、バージンロードを歩くときの新婦の父親に課せられる、変な歩き方をご存じですか?
独特なヨチヨチ歩きみたいなステップでして、世の中のお父さんをとても困らせています!

皆さま、会社の廊下の片隅のような目立たない場所で、変な歩き方を練習しているおじさんを見ても、びっくりしたり変な目で見たりしないでくださいね。単にバージンロードの歩き方を汗をかきかき練習している新婦の父なので……。