ヤクルト1000で悪夢?

ヤクルト1000で悪夢?

皆さま、ヤクルト1000という商品をご存じでしょうか? 


巷では、睡眠や精神安定に効果があるとのことで大評判のようですね。最近は駅の自動販売機でも見かけるようになってきました。

私はそもそもサプリのようなものには否定的な意見を持っているので、これまで気にもとめないでいました。しかし、ネット上で「ヤクルト1000を飲むと悪夢を見る」という投稿が多く挙げられているのを知り、興味を覚えました。

おそらく皆さまは、こういった投稿を見ると「怖い」とか、「有害だ」と感じられると思います。でも私の印象はその逆なのです。私の率直な感想は、「これはひよっとして本当に睡眠に良いのかも?」です。なぜなら、最近、当科で頻用される睡眠薬である、オレキシン受容体拮抗薬(商品名はベルソムラとデエビゴです)が出始めた時の悪評にそっくりだからです。

このオレキシン受容体拮抗薬系の睡眠薬は、その高い安全性と、睡眠に対する影響の良さで画期的と言われています。全く依存性はなく止めやすいですし、近年その重要性がわかってきた「レム睡眠」を増やすことが知られているのです。

皆さまご存じかと思いますが、人は浅い睡眠の時も夢を見ますが、最もよく夢を見るのはこの「レム睡眠」の時です。そして特徴的なのは、浅い睡眠の時には現実に近いような夢を見て、レム睡眠では、やや荒唐無稽な夢となるということです。


これは、前回も書かせていただいた、「最近経験したことを、自分でも忘れていたくらい関連性の乏しい記憶と結びつけて理解し、一つの重要な知恵として蓄える」という、脳内のシステム(詳しくは前回挙げた本をお読みいただけると幸いですが、NEXTUPと呼ばれています)が、レム睡眠中に活発に動いているためらしいのです。

レム睡眠中の夢は、このNEXTUPというシステムの活動の余波を受けているので自然と、自分では全く関係のないように感じられる登場人物が次々に唐突に登場するような展開となり、「荒唐無稽」な夢になるということらしいです。さらにはレム睡眠中にはセロトニンの濃度が下がることもわかっていて、それで、レム睡眠中の夢は恐怖感を伴うことが多いのかもしれません。

とはいえ、NEXTUPの働きはとても重要であり、その活動が活発となるレム睡眠はヒトにとって欠くことのできないものでしょう

ですので、私ども精神科医は、オレキシン受容体拮抗薬系の睡眠薬を飲まれて「悪夢を見た(あまり多くはないです)」、あるいは「夢が増えた(結構たくさんいらっしゃいます)」とおっしゃる方には、「健康に良い、大切なレム睡眠が増えていることの反映なので、良いことなのですけど…」と説明し、服薬をなるべく継続していただくことにしています。

ということで、ヤクルト1000を飲まれた方の反応は、オレキシン受容体拮抗薬を飲まれた方の反応と似通っているわけで、もしかしたら本当に睡眠に良い影響があるのかも知れませんね。

しかし、なぜヤクルトが睡眠に影響を…?という疑問は残りますが
ただ、「腸脳相関」といった考え方も少し前から言われ出していますし、人間の身体というのは、まだまだ解明できないネットワークや、不思議なメカニズムによって動いているのでしょう