メダカにも、孫にも、それぞれ個性があります - 飯田橋メンタルクリニックブログ | 飯田橋メンタルクリニック | 千代田区 飯田橋駅徒歩5分の心療内科 精神科

メダカにも、孫にも、それぞれ個性があります

もうお気づきの方も多いと思いますが、今、当院のエレベーターホールにはメダカがいます。

当院に来たときには生まれたばかりの小さな赤ちゃんメダカだったのですが、順調にスクスクと育っています。当院の新任医師である三宅槙医師がメダカの飼育にも詳しいため、ライトをつけたり、水槽の環境を整えたりと、いろいろと世話を焼いています。

ところで、メダカを眺めていて、最近面白いことに気がつきました。どうも一匹一匹に「性格」のようなものがあるらしいのです。もちろん、本当にメダカに人間と同じ意味での「性格」があるのかは分かりません。ただ、餌をあげたときの行動には、個体によってかなり違いがあります。

半分くらいのメダカは、水面近くを活発に動き回ります。餌が浮かんでくると、さながら狩りでもするように、素早く餌に食いついていきます。

ところが、もう半分くらいは、水底のあたりをのんびり泳いでいます。そして、水面の餌が少しずつ沈んでくるのを待って、ゆっくりと食べています。

面白いのは、水底にいるメダカが、特に痩せているわけでもないことです。どうやら、水面まで激しく泳いでいかなくても、それなりに餌を食べて、ちゃんと成長できているらしいのです。むしろ私は、水面近くを猛烈な勢いで泳ぎ回っているメダカを見ると、「そんなに動き回ったら、かえってエネルギーを使いすぎるんじゃないの?」と言ってやりたくなります。

それぞれのメダカが、自分の体質や気質に合った行動パターンを、知らず知らずのうちに選んでいるのかもしれませんね。

そんなことを考えていたところ、私の家にも最近、赤ん坊がやってきました。

おかげさまで、短い間に二人の孫が生まれたのです。そのせいでの中は以前よりずいぶん賑やかになりました。二人の赤ん坊を見ていると、やはり生まれながらの「気質」の違いというものがあるのだな、と感じます。

一人は、比較的おとなしく、少しくらい放っておいても機嫌よく過ごしています。ところが、もう一人は、抱いていないと、すぐに火がついたように泣き出します。もちろん、まだ赤ん坊ですから、これからどのように成長していくのかは分かりません。それでも、生まれたばかりの段階から、ずいぶん違うものだなと思います。

ところで精神医学や発達心理学では、人の性格や行動傾向には、生まれ持った気質がかなり関係していることが知られています。ちろん、育った環境や、その後の経験も大きな影響を与えます。すから、「生まれつきだから何も変えられない」という話ではありません。ただ、人にはそれぞれ、生まれつきの「自分らしい傾向」があるらしいのです。私は、そのことを知っておくのは大切なことだと思っています。

人間の社会では、ときどき「こういう人間でなければならない」という型ができてしまいます。積極的であること、人付き合いが上手であること、仕事が速いこと、人前で堂々と話せること。そういう能力が評価される場面は確かに多いでしょう。しかし、誰もが同じようにできるわけではありません。人と話すのが得意な人もいれば、一人でじっくり考えることが得意な人もいます。すぐに行動できる人もいれば、時間をかけて慎重に考える人もいます。

大切なのは、「人と違ってはいけない」と考えたり優劣を意識することではなく、まずは自分にはどんな特徴があるのかを知ることなのではないでしょうか。そして、自分の得意なところはできるだけ伸ばし、苦手なところについては、それを補う工夫をする。

ちまたでよく聞く「ありのままの自分でいい」という言葉は、とても優しい言葉です。けれども私は、それだけでは少し足りないようにも思います。ありのままの自分を受け入れるだけでなく、ありのままの自分を知ったうえで、どうすれば社会の中で自分らしく生きていけるのかを考える。そのほうが、現実的なのではないでしょうか。

ユング心理学には、「人生の前半では、自分の持っている能力の中から特に得意なものを見つけ、それを伸ばして社会の中で自分の居場所をつくっていくことが大切だ」という考え方があります。そして人生の後半になったら、「それまで十分に生かしてこなかった自分の中の別の側面にも目を向けていく」ともユング心理学では考えていきます。私はこれまで、どちらかというと後半のテーマのほうに関心を持っていました。しかし、二人の孫を見ていると、人生の前半のことも改めて考えさせられます。自分には何ができるのか。何が苦手なのか。どういう環境なら、自分の力を発揮しやすいのか。そういうことを若いうちから少しずつ知っていくことも大切なのかもしれません。そして、それは必ずしも「人より優秀になる」ということではありません。自分に合った泳ぎ方を見つける、ということなのだと思います。

水面近くを忙しく泳ぎ回るメダカと、水底をゆっくり泳ぐメダカ。どちらが優れているのか私には分かりません。ただ、それぞれが自分に合ったやり方で餌を見つけ、ちゃんと成長しています。人間も同じなのかもしれません。大切なのは、他人と同じ泳ぎ方をすることではなく、自分がどんな泳ぎ方をする人間なのかを知ること。そして、その泳ぎ方でどうすれば自分らしく社会の中を生きていけるのかを考えることなのかもしれませんね。

当院にお越しの際には、ぜひエレベーターホールのメダカたちもご覧になってください。面を泳ぐもの、水底を泳ぐもの、それぞれの泳ぎ方を眺めていると、少しだけ人間のことも分かるような気がします