神経発達症について_ニューロダイバーシティという視点も含めて

ニューロダイバーシテイについて

先日、産業医として行かせていただいている企業で、「ニューロダイバーシテイ」というテーマでセミナーをさせていただきました。その企業は外資系であるせいか、そういう先進的な取り組みについては、日本の企業の先を行っているようです。


ニューロダイバーシテイ、というのは、発達障害の方への理解に関する新しい視点であって、現在、世界的に大きな潮流となっています。

一言で言えば、そもそも現在、発達障害というように「〜障害(つまり病気)」と呼んでいるわけですがそれ自体おかしいのではないかという考え方です。


確かに発達障害の方は、生活上、多くの困難さを抱えています。例えば成書にもこのような記載がよくみられます。




また、WAISという心理検査をするとADHDの方は作業記憶が低得点の場合が多いとの説があります。

作業記憶の得点が低いということはどういうことかは、当日スライドでもお示ししたのですが、




このように、一度に見渡せる作業机の大小に関係するとイメージしやすいと思います。

普通の方(医学的には「定型発達の方」と言います)は、例えばパソコンで作業をしていても、頭の片隅には、さっき来た手紙のことも入っているし、他の仕事も覚えているし、なおかつ締め切りなどのスケジュールも入っています。電話がなって、その対応をしている時も、電話中もその他の仕事のことを覚えているので、電話が終わればすぐ前の仕事に戻れます。

いっぽう、ADHDの方の場合、この一度に見渡せる作業机が小さいとイメージすることができます。眼の前のパソコンの作業に熱中していると他の仕事が見えなくなってしまうし、急に電話対応などが入ると、前の仕事に戻ることが困難になってしまいます。


と、このようにADHDの方の困りごとを「症状」、それも「治すべき症状」と私達は説明してきました。それが私のみならず通常の医師のスタンスだったと思います。けれども、このスタンス自体に最近は疑問が持たれているのです・



そもそも、「〜障害」とか「〜病」、つまり病気というものは、ある時期までは問題がなかったのに、ある時期から調子を崩した場合に使うことが多い言葉です。発達障害の方のように、生まれた時からそうであって、おそらく、今後もその状態が続く場合は、この言葉は馴染みづらいとも考えられます。

さらには、定型発達の方に比べて何か劣る面があれば、まだしも、「〜障害」と言ってもいいのかもしれません。しかし、そうでもないのです。このスライドでお示ししたように、発達障害の傾向がある方で偉大な業績を残された方はとても多いのです。

そして、実は、欧米の先端的な企業ではすでに、発達障害的な特性を持つ方の積極的な採用が始まっています。その方々の持つ、ユニークな発想力や行動力、あるいは強力な論理性などが高く評価されていて、それらの強みを企業の中で活かしていただくのが、今後の企業の発展のために喫緊のテーマとさえ言われているそうなのです。


そういった現状も踏まえ、最近では、発達障害の方は病気ではなくて個性であって、その特徴は治すべき症状ではなくて特性、と捉えようという動きがあり、その潮流のことをニューロダイバーシテイと呼んでいるわけです。


何分、新しい考え方なので、誤解も多いようです。しばしば見られる誤解もスライドにしてみました。


そこに書いたように、単に「障害者雇用を増やそう」といった意図に留まる理念ではありません。つまり、会社にいる「自分は普通」と思っている人に、障害者を雇用して、とお願いしているのではないのです。もっと根本的な考え方の改革を要請しています。

すなわち、多くの人々が実は平均的な「ヒト」からは多少ズレた、生物としての正常なバリエーションの1例であって、そのバリエーションの皆がお互いに尊重しあいながら生きていけるような社会を作ろう、といった考え方なわけです。


もう一つ興味深いのは、スライドのⅢに書いたことです。つまり「障害者の方にとってだけ優しい社会を作ってあげよう」といった考え方すら超越しているのです。

すなわち、いわゆる「ユニバーサルデザイン」というのに似ている理念です。階段だった所をスロープにしたら皆が歩きやすい場所になった、とか、手に支障がある方のために作ったペンが実は皆にとって使いやすい、とか、そういったことがユニバーサルデザインなわけですが、同じようなことが社会の仕組みにも言えるということですね。

往々にして仕事の仕組み、だんどり、フローというものは、複雑で煩雑なものになってしまいがちです。ある会社で、それを発達障害の方にとってもすぐ理解できるようなシンプルなものに作りかえたら、実は皆が、ずいぶん仕事がしやすくなった、という実例が積み重ねられてきているのです。


今後、社会全体が、そのようにわかりやすい仕組みによって成り立つようになっていくといいですね!